驚いたのもつかの間。少し冷静に状況を見ると、どうやら走ってきた子供にぶつかり体制を崩した彼女が俺に向かってコーヒーをこぼしたようだった。


途端慌て出す彼女。



「ス、スミマセン!今おしぼり持ってきます!」



しまった。というような顔で頭を下げられて、俺は茫然とする。


願ってもないチャンスだった。


コーヒーの熱さなんか気にならないぐらいの高揚感。


おしぼりを手にして戻り、躊躇なく俺の太ももに触れる彼女に今にも手を伸ばしそうな勢いだった。



「うわ……やば。シミになりそう、かも?……これ、けっこういいやつですよね?」


「いや、そうでもないよ。それより君の方は大丈夫?けがはなかった?」



よく見ると、足元にはカップの破片が所々に散らばっている。