話しが早いなぁ、と彼は言う。


せっかちなこの人は、無駄話をするわけでもなく、早速本題に入った。



「嶋さんから、お前に会ったら伝えてほしい、って言われてたことがあるんだ。」


「…嶋さん?」


さっきの今だったからか、首を傾げた。


思わず足を止め、俺は国光さんの顔をいぶかしげに見る。



「レイコが変わったのは、多分お前のおかげだろうな、って。
一応てめぇにゃ感謝しといてやるよ、ってさ。」


驚いた。


と、いうか、驚きすぎた。


まさか嶋さんが俺に、そんなことを言うなんて、って。



「清人もだけど、特に陸だろうな。
お前らは俺じゃ無理だったことしたんだよ、って言ってたよ。」


何やったの?


国光さんが不思議そうに聞いてきたが、俺は答えなかった。


嶋さんって人は、何だかんだ言いながら、レイコさんが一番大事なんやろうな、って。


俺らがあの人の部屋に通ってたのも全部知ってて、でも黙ってた、ってことやろう。


そして、国光さんもまた、それだけのことを伝えるために、俺を探してくれていたんやろう。


電話すれば一発やのに。



「なぁ、国光さん。」


「ん?」


「今度会ったら飯奢らせるから、覚悟しときぃ?」


それは嫌だ、と言った彼は、逃げるようにきびすを返す。


俺は大爆笑のまま、そんな車を見送ってやった。


仰ぎ見た空は、昼と夜の狭間で美しい茜色に染まっていた。