クタクタの体を押して戻ったのは、レイコさんの部屋。


ノブに手を掛けたが、鍵が閉まっていることには驚いた。


今日は仕事じゃないはずやのに、と思いながら、仕方なく相鍵を手にし、鍵を開ける。



「レイコさん、おらへんのー?」


叫んで、部屋の中をぐるりと歩いたけど、やっぱり住人は不在やった。


俺は不貞腐れ、いつものカウンターに腰を降ろし、脱力した体を投げる。


静かすぎて、ちょっと不安になった。


仕方がないから携帯を取り出し、彼女の番号に通話ボタンを押す。



「あ、レイコさん?」


『…何か用かしら?』


「帰ったら、美味しいコーヒー淹れてくる約束やったやん。」


言うと、あぁ、と彼女は言った。



『銀二、今うちに居るの?』


「そうやで?
待ってるんやし、早く帰ってきてやぁ。」


そう言ったのに、電話口の向こうからはため息が聞こえる。


そして馬鹿な子ね、と彼女は言った。



『悪いけどあたし、当分戻らないから。
てゆーか戻れないと思うし、その間は部屋、好きに使ってくれて良いから。』


「は?!」


レイコさんらしからぬ言葉や。


つーか、戻らないってどういう意味?