やっぱり俺は、この人には敵わないみたいや。


苛立ちをぶつけるだけのガキで、ただ逃げ場所ばかりを求めてるんやから。



「…ごめんな、レイコさん。」


言って、肌蹴た服を直してやると、彼女はふっと笑う。



「そうやって謝ってくれるのは、あたしの人生においてアンタかジルくんくらいのもんよ。」


「…やけど、ごめん。」


俺は多分、ちっちゃい子みたいにシュンとしてたんやろう。


レイコさんは珍しく、呆れたように笑っていた。



「レイコさんは、俺にとって姉ちゃんみたいなもんやねん。」


「あらあら、迷惑な話ねぇ。」


「そういうの嫌いやもんね、レイコさんは。」


言うと、彼女はまたふっと笑う。


やから俺もそれ以上は言わずに笑った。


多分これは、許してくれる、ってことやろうから。



「お詫びに今日は、俺がコーヒー淹れたるわ。」


「無理よ、絶対アンタには無理。」


「俺、これでもジルくんと違って器用なんやで?
いっつも見てるし余裕やん。」


「見よう見真似じゃ美味しくはならないわ。
この世界にあたしより美味しくコーヒーを淹れられるのは、ひとりしかいないもの。」


それって嶋さん?


そう聞こうと思ったが、やめといた。


結局レイコさんは俺にコーヒーを淹れてくれ、苦さとあたたかさが身に沁みた。


夜はまだ、明けることを知らないらしい。