清人の小さな迷いに、瞳が揺れた。


思わず言葉が出なくなった俺に、「ビビってんの。」なんて彼は笑う。



「彩とのこともバレてるみたいだしさ、いつ言われんだろう、って。
つーか俺、付き合ってもないのに振られるのかなぁ、みたいなさ。」


こんなの初めてだよ。


と、何でもないみたいな顔して笑いながら言う清人は、やっぱり痛々しく見えた。



「初なら何でも赤飯やってうちのオカンが言うてたで?」


「なら明日辺り、お前に赤飯でも奢ってもらうかねぇ。」


終わる覚悟のように聞こえた。


彩から散々絞って風俗に落として、そして捨てた時にお前には何が残るんやろう。


清人がレナちゃんより大事なものなんか、想像出来なかった。



「まぁ、俺の誕生日は倍返ししてもらうから、覚悟しとけよ?」


「赤飯の倍返し?」


「食えるか、アホ。」


いつの間に、辛い時に笑う癖が出来たんやろう。


笑ってるからまだ大丈夫、まだ大丈夫、って言い聞かせるねん。


自分の心にまで嘘ついて、そうやって“大人”になって、俺らは何を手にしたやろう。


失ったものの数ばかり数えすぎて、なのにちっとも痛みには慣れへん。


俺も清人も互いに言わないことが増え、わからないことだらけになってしまっていた。


それって悲しいことやねぇ。