「…どこ行くつもりや?」


「彼氏んとこ。
そんなのまでいちいち報告しなきゃダメなわけ?」


相変わらず刺々しく言いながら、「お兄ちゃんにも関係ないことでしょ?」なんて言う。


俺は腹の底で苦々しさを押し殺した。


こうなることはわかっていたはずなのに、爆発してしまいそうや。


あからさまに避けた態度で、おまけに男のところに行くと言う。



「彼氏のこと、好きなん?」


「お兄ちゃんよりはずっと好きだよ。」


同い年で、同じ学校で、同じ好きなものの話題で盛り上がれる、自分に似合った人なのだと、理乃は言った。


俺とは真逆、ってことやんな。



「お前は俺の妹やよ。」


「だから何?」


「血が繋がってなくても妹や。
それだけは忘れんな。」


そう言って、俺は自室へときびすを返した。


少しすると、理乃の出掛ける足音と、そしてドアの開け閉めの音が響き、消えた。



「…アホやんなぁ、俺…」


ゴッ、と壁を殴ると、痛みよりも苦しさと悔しさに顔を歪めてしまう。


突き離したのは俺やのに、離れていく理乃にどうしようもなく寂しさと悲しさを覚えてしまうんや。


これってただの、“おもちゃを取られたガキ”ってだけなんかもしれん。


やっぱりわけがわからなくなって、結局は顔を覆った。