満月の夜は、明かりを持たずしても迷う事なく歩いていられる。
 それは都会ではないからだろう。月影があちらこちらに出来、桐生青一郎も自身の影を見ながら歩いていた。
 すると、そんな彼に背後から声が掛かったのだ。
「セイっ」
 それは一人の男の声だった。だが、彼が振り返った先に居たのは少年。
 ニキビなどはないが、まだ思春期真っ盛りの、彼と同じ年子と思われる少年。身体は一人前に大きあるが、声だけが大人になったようなそんな感じ。
「アキか」
 間が開いたが、セイは少年に表情を変えず応える。
 しかし、少年はその態度に不満があったようで、彼の肩を軽くこずいた。
「俺じゃ不満だってのかよ」
「そう言う意味じゃない」
 そう言いながら、苦笑を漏らす。
 だがそれには、アキは何も言わない。黙って自身の背後を向いてしまう。