数日後、鍋島はアグリと一緒に夏みかんの手入れをしているユキのところへやってきて言った。

「ユキさん、元の世界に帰る方法があります。」

「どうやって帰るの」

「君がイチゴを取って来た屋上から、西に向かって空気のブロックをイメージして500メートル位先に、元に戻る扉があるんだ。でも、そこに居るマネキンにここでの記憶は消されてしまうけどね。」

数秒の間が有ったが彼女は言った。

「お世話になった皆さんと離れ離れになるのはさびしいですが、私は海隊として元の世界でシステム資源を集めなくてはなりません。明日帰ります。」

鍋島もアグリもユキに留まって欲しいと思っていたため、残念そうにしていた。



翌日、鍋島とユキは妖気館の屋上にたどり着いた。

「僕は昔、ユキさんと同じように熱意を持って仕事をしていたんです。しかしあるとき魔が刺した。10年前、社員のシステム資源持ち出しにより潰れたメガバンクがあったでしょう。あのとき資源を盗んでこの世界まで逃げてきたのが僕だ。すぐに盗んだ資源は枯渇しましたよ。僕は元の世界に帰りたくて帰りたくて仕方なかった。でも元の世界には住める場所は無い。家族に会いたい、彼女に会いたい、友達に会いたい、そしてやり直したい。そう思っていたら部屋からシステム資源が湧き出て来たのです。」

「リソースタウン・ハギは鍋島さんの帰りたいという溢れる感情が作り出していたんですね。」

「これを持って帰って下さい。アグリから預かっています。この世界でのユキさんの楽しい記憶をレジスターに詰め込んだのだそうです。いつの日か、元の世界で解読される時代が来るまで大切に持っていて下さいね。」

「ありがとう。きっと解読して皆さんのことを思い出します。ではごきげんよう。さようなら」

ユキは屋上から空を駆けた。

そして記憶はデリートされた。