ワイビーニュー



数週間後、ユキの住まいにアグリがやってきて言った。

「鍋島さんの病状が悪化しています。キュアレジも効かず、このままでは死んでしまいます。彼が死んだらこの街はどうなるのか。ユキさんしか頼める人は居ません。ナガトの妖気館の屋上に生えているイチゴを取ってきてください。彼はあと1日か2日しか生きられないでしょう。」

「わかったわ。」

リソースタウン・ハギのシステムパワー有効エリアはハギとその周囲10キロ程度であり、ぐうたら市民の中にナガトまで走れる者は居ない。

未開の地にポツンと佇む妖気館。誰が建てたのか知らないが、この世界の仕様書に添付されている地図には確かに妖気館が書かれている。

ユキは仕様書片手に家を飛び出した。

真夏の太陽に輝く夏みかん畑を韋駄天のごとく駆けだした。

皆、彼女のことを心配そうに見守っていた。

海沿い、山の中を休むことなく走り続ける。

ハギを出ると舗装されていないため、極めて走りにくい。

しかし彼女は諦めない。

そしてついにハギからナガトは妖気館までの42.195キロを走り終えたのだった。

既に夕暮れ時になっていた。

屋上に行くと、マネキンがずらりと並んでいる。

「誰が何のために、こんな悪趣味なことを。」

彼女は気味悪がりながらイチゴを摘み取った。

しかし42.195キロを走り終えた彼女にはもはや萩に戻る力は残されて居なかった。

「鍋島さん、ごめんなさい。私には帰る元気が残されていないみたい。舗装されて無い道を往復するのは無謀だったのかも。あなたが死んだらこの世界はどうなるのかしら。」

彼女はへたりこんでしまった。

「あなたもイチゴを1つ食べてごらんなさい。すぐに元気になるはずです。」

マネキンが彼女に話しかけた。