崖から数人が落とされたが、掘削により出来た洞穴に隠れて息を潜めている部員たちもいた。

彼らはランプの灯りを取りを囲んで小さくひとかたまりになっていた。

恐怖で震えが止まらなかったが、何とか打開策を練っていた。

「あんな赤い巨人からどうやったら逃れられるんだ。走ったら追いつかれるだろうか。」

「俺たちに対するうっぷんや憎しみがあんなにも溜まっていただなんて。元に戻す方法はあるのか」

「シャブ中の相撲取りに勝てる筈が無い、どうしよう。」

皆がそのようなことを話しているとき、それまで何もしていなかった黒松田が手垢だらけの汚い本を必死にめくりながら口を開いた。

「皆さん、議論中のところおじゃまします。先ほど、油川先輩はえふびいくろおずと叫んでいるように聞こえたのだ。僕はこの言葉を本で読んだことがあるのだ。」

黒松田とは生まれつき身体が弱く、その影響かどうかは知らないが皮膚の色が真っ黒である。

暗い洞窟の中では彼の皮膚は闇に溶け込んでしまい、着ている服と白い歯しか見えず、まことに奇妙な光景である。

陸隊に選ばれてからも体調不良を理由に、たまにしかつるはしを握ることはなかったが、その代わりにアセンブラ言語の研究と言い張り、たとえ炎天下であっても古い書物を熱心に読んではこまめにノートに何かを記入していた。

彼の皮膚はちりちりと更に黒くなっていったのだが、その姿が何とも熱心に見えたので辛うじて首が繋がっていたのである。

UBE社内ではアセンブラ言語の研究は推奨されている。

アセンブラ言語とは古代ギリシャの壁画に描かれていた古代文字である。

現代になってからも未だに解読されていないが、壁画には古代の神々が自由自在にシステム資源(厳密にはシステム資源に非常に良く似た物質)を使いこなす様が描かれているのである。

「わかったのだ、あれは憎しみの赤神、エフビークローズなのだ。」