その言い方が面白かったらしく、何人かが油川の声色を真似して

「土俵入りじゃねえよ」

と言った。

皆顔を見合わせて微笑んでいる。

気分を害した油川はぷいと輪の外に出て、煙を吐き出しながら自分の持ち場に帰っていこうとしている。

そこに誰かが追い討ちをかけた。

「油山親方は煙草を吸うためにこの華山に来ているのですか？それとも稽古ですか？」

どっと笑いが起こる。

「巡業だよ、華山巡業！」

下品に笑いながらそう言う者も居た。

油川は爆発しそうな気持ちを必死でこらえ、大量の煙を吐き出した。

「るぉぉぉおーず。きっと掘り当ててやる。きっと。おおおおおず」

自分の持ち場に帰る油川の後姿を見ていたイナックスは彼のの異変に気付いたが、そんなこともないだろうと思い、作業に戻った。