――そんなドタバタから1時間。

 薬が効き始めたのか、ようやく落ち着いた彼は安定した寝息を立てて眠っている。ちなみに私の絶叫を聞いた隣人(女性)が何事かと飛び出してきて、事情を説明して謝罪するとリンゴをくれたりしたんだけど……林檎、違うんだけど連想してしまうなぁ。それどころじゃないのに。

 いくら落ち着いたとは言えども、体温はまだ39度前半。あまり楽観視出来ないのが現状である。熱さましとゼリー状ドリンクは気力で飲んでもらったけど、そもそも、風邪だって決まったわけでもないし……状況が改善されないようであれば、救急車を呼ぶことも視野に入れなきゃいけない。

「……さわ、しろ?」

 刹那、かすれた声で私を呼ぶ声が聞こえた。
 私は読みかけの雑誌を広げたまま立ち上がり、枕元に寄り添う。

「気がついた? ったく、具合悪いなら一言言ってくれれば、私がいる間に色々持ってきてあげられたんだよ?」

 そう言う私をとろんとした表情で見つめる彼は、ぽつりと一言。

「俺……具合、悪かったのか?」

 ここまできて無自覚ですか。
 彼のびっくり発言に、私も頭が痛くなってくる。

「今の新谷氏を客観的に言えば、体温39.2度で全体的に熱いし、かと思えば顔色は良くないし。私が駆けつけなかったら朝には本当の屍になってたかもしれないんだからね」

「そう、だったのか……」

 あぁ神様、彼を一発殴ってもいいでしょうか? 妙なところで抜けている彼の天然発言に、駆け回った私は沸騰寸前。