初めて、見た。
 こんなに切ない、彼の顔は。

 そんな彼が紡いだ拒絶は、私を混乱させるだけで。

「薫……私には、君が何言ってるのか、分かんない、よ?」

 涙が出るかと思った。いや、瞳は既に潤んでいる。
 呆然としたままの私を、彼もまた、今の私と同じような表情で見つめて、

「俺は……都の側にいたいって……思ってる」

「だったら! さっきの言葉はどういうこと!? 私、だって……私だってねぇっ!!」

 意味が分からない。お互いに一緒にいたいって思っているならそれでいいじゃないか、それのどこに問題があるっていうの!?
 激昂した私の頭に……聞き分けなく泣き叫ぶ幼い子どもを諌めるように、彼はそっと手を置いた。。

「都は……これからも、こんな思いをしながら俺と付き合わなくちゃならないの?」

「え?」

「俺が……また何か、別の人間関係でトラブルを起こすと、都は手を貸して、きっと俺を助けてくれる。だけど……その度に都は、嫌な思いしなくちゃならないんだろう?」

 彼が何を言っているのか、何を伝えたいのか……正直、全く伝わってこなかった。

 これが、彼なりの優しさ?

 これは、寂しかったって思った私への、試験?

 理解できない、理解したくない、訳が分からない!

「そうかもしれない、けど……でも、そんなの私は構わない! 私はっ……!」

「――やっぱり、俺はこれからも、都を傷つけながらじゃないと、一緒にいられないの?」


「違うでしょう!?」


 思わず叫んだ。

 違う。

 そうじゃない。

 違うんだよ、薫。

 どうして……そういう風にしか、考えられないの?