始まりはあの日。

みんな部活がなくって、帰ってる途中だったね。


「大丈夫?」


偶然こけかけてあなたの背中に当たってしまったあたしに、優しく、声をかけてくれたあなた。

「う、ん」

「そっか、よかった」


ニコッ、と微笑んで、『じゃあね』といって帰ってしまった。
"ありがとう"も"ごめん"も、何一ついえず、あたった頭にただ頭をおいてるあたし。
その後も数分、固まっていた。






*******

「はぁ~・・・かっこよかったなぁ・・・」


顔しかわからない彼に、あたしはお礼が言いたくって仕方がなかった。
だが、1学年400人近くいるこの学校で顔だけで見つけられるわけがない。

せめて、名前がわかっていれば別だが。



「零菜ー?何悩んでるの?」


後ろから、友達の片山雪乃(カタヤマ ユキノ)が喋りかけてきた。
私の名前は相庭零菜(アイバレナ)。3-6の一員だ。



「いやーお礼いいたい人がいるんだけど・・・・」


「名前は?」


「それがさあわかんないんだよね」


その瞬間、雪乃の固まった顔がみえた。


それもそのはず。気になる人の名前がわからないなんて、乙女にあるまじき行為だ。


「まっじありえね~!!」

一通りの話を聞いた雪乃はドスッ、と椅子に座った。
あたしは、『はは・・・』と笑うことしかできず、
何も言い返せなかった。

「雪乃、彼氏」

「ん?あ、悠太っ」