稜子は喉が渇き、静かに一階へ降りた。
冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぐが薄暗くて難しい。
台所の電気を付ければ早いが、家族に見つかると叱られるので、できなかった。

ギシ と床が鳴った。
汗が手や髪の生え際から滲むのを感じた。
暗がりにぼんやり見えるのは祖父。

「泥棒!勝手にうちのもん触るなま」
「うるさい。話しかけんといて」負けず嫌いな性格で、いつも無視できない
「何ね。お前みたいなブタは川の水でも飲んどれ」
稜子はコップをテーブルに置き、小走りで部屋に向かい、引き出しからB5、24ページの安いノートを取り出す。
そこに嫌な事がある度、気持ちを綴るのだ。
全てのページが埋まれば自殺すると決めている。

死にたくなって、どうせ引きこもりだから明日死のう。と生き延びる時間。その時間の間にまた傷ついて、死にたくなって、明日死のう の繰り返し。
方法が思いつかず怖かった事や、もしかしたら…という希望もあった。

しかし、埋まっていくノートは希望もないと気付く為の道具になっていた。