ふたつの指輪

カバンからカバーのかかった本を取り出して、それきり黙り込んで、難しい顔して本を読んでる。


イヤホンからカシャカシャいう音がわずかに漏れる。



あたしは困って、そんな”お客さん”の、きりりと整った精悍な横顔をただただ見てた。




(安易にこんな仕事選ぶんじゃねぇよ)


(平気で彼氏に顔合わせられんのか?)



そりゃね、キレイな仕事じゃないことはわかってるけど……

でも、お客さんの立場の人に、真っ向からここまで言われると思ってなくて。



あたしは正直ぐっさりと傷ついてた。




薄暗い、安っぽい部屋には、ページを繰る音だけがときどき響いてた。



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「あと5分か。

そろそろ追い出しコールでも来るのか?」


お客さんは本から目を離して時計を見上げると、イヤホンを外した。