図書館で会いましょう

どれぐらいの時間が経ったのだろう。数時間とも思えたし、数十分にも思えた。由美は絵への幻想から戻ってきた。初めて北澤が近くにいないことに気付く。
「あー…」
他人の家での行動に由美は少し申し訳ない気持ちになる。ふと目の前にある写真立てに気付く。どこにでもある写真立てだが、無造作に貼られている写真が多いこの家では、その写真が『特別』だと考えるのは容易なことだった。見ては行けないと思いつつ、由美は恐る恐るその写真に近づく。
その写真には一人の女性が写っていた。
「きれいな人…」
その女性は優しい微笑みでこちらを見ている。しかしその写真には違和感があった。
「病院?」
その女性はベッドの上にいた。服装も病人が着るものだ。写真をとった場所が病室だということは容易にわかる。化粧をしていないことがその女性の優しい微笑みを際立たせていた。
「遠山さん。」
振り向くとドアのところに北澤が立っていた。その表情は少し困ったようなひきつった笑顔だった。
「駄目ですよ。勝手に見ては。」
声の口調が変わっている。初めて会った時のように淡々としていた。さっきまでのと比べ、冷たさを感じる程だった。由美はその口調にこの写真の『特別』さを一層感じた。それだけに由美は北澤に対し後ろめたさを感じてしまう。
「まぁ仕舞わなかった僕が悪いんですけどね。」
由美の気持ちを察したのだろう。そんな言葉をかける。
「大事な人なんですね…」
何故、自分はこんなことを言ってしまったのだろうと思う。由美は自分の発言に後悔する。言葉をかけられた北澤は一切、表情を変えない。無言で由美の横を通り、写真立てを手に取る。じっと写真の女性を見つめ、そして軽くため息をついた。無言が空気を更に重くする。そして、
「妻です。」
北澤が静寂を破った。そしてその言葉は由美にとって意外なものだった。
「奥さん…ですか?」
「はい。」
北澤の部屋を見て、とてもじゃないが奥さんがいるようには思えなかった。それだけに意外だったのだ。