頭の中ではBeatlesのAll my lovingが流れていた。軽く口ずさんですらいた。現状を考えれば不謹慎極まりない行動だろう。だが俺にはそうする必要があった、そうするしかなかったのだ。それは気を落ち着かせるためだったのかもしれないし、色々なことを諦めるためだったのかもしれない。
 明日、いや数時間後にはおれは全てを失ってしまう。レイチェルも、玲花のことも、両親のことも。全てを失い無へと帰るのだ。
 ファーストキスも、童貞も捨てられずに逝くのか…。それだけは心残りかもしれないな。そんなことを考えるだけの余裕があったのか、いや、俺はやっぱり恐いのかもしれない。目の前に迫った終わりに対し怯え、その恐怖を誤魔化すために、そんなことを考えているのかもしれない。