──涙が、出た。
笑って「うん」って。
「あたしはどこにもいかないよ」って言ったつもりなのに、唇が震えてうまく言葉にならなくて。
あたしの想いは、言葉よりも涙に変わって。
あたしは慌ててソラの手を振りほどくと、「ちょっと、ごめん……」ってソラに背を向けて、洗面所に走った。
イヤだ。
ソラの前ではもう泣かないって決めたはずなのに……。
洗面台に手を突くと、あたしは口を押さえて、涙声が外に漏れないよう必死に嗚咽を堪えた。
「美夕、あがるよ?」
後ろからソラの足音がする。
「駄目!」
だけどそう言ったときにはもう遅くて、洗面台の鏡に映ったソラと目が合ってしまった。
あたしの泣き顔に、ソラの表情が固くなる。
「……勝手に入ってこないでっ!」
あたしはソラから目を逸らすと、両手で自分の顔を隠した。
その時だった。
「泣かないで」
気がつくとあたしは、ソラに、背中から抱き締められていた。
……あれは、いつ、どこだった……?
泣きながら、あたしは必死に記憶の糸を手繰り寄せた。
……そうだ。
キラや先輩とペンションに行ったときの、お土産屋さんのトイレだ。
あのときもあたしは、泣き顔をソラに見られて……。
「俺、美夕に泣かれると本当に困るんだ。だからお願いだから、泣かないで」
自然にソラの口から出たその言葉も、
あたしを優しく包み込むその腕も、
あのときと全く同じだ。
……変わっていない。
ソラは、あの頃と何も変わってなんかいない──。


