「あとで2人の両親から、ソラが美夕ちゃんと駆け落ちしようとしていたって聞いたとき、不謹慎だけど嬉しかったんだよ。……やっとソラが大事にしたい相手を見つけられたんだって思ってね」

あたしはスケッチブックを閉じた。

これ以上開いていたら、せっかくソラが描いてくれたあたしの絵が、涙で滲んで消えてしまいそうだったから。


「美夕ちゃん、本当にありがとう」

「そんな……」

「何かに執着することを頑なに拒み続けたソラが心を揺さぶられるくらいの愛情を、あげてくれたんだろう?」

「あたしは……ソラにちゃんと自分の気持ちを伝えてもいないし……何もしてあげられなかったんです。……それに、その結果、あんなことになって……」

「いや、あれでよかったんだよ」

旦那さんの低く落ち着いた声が、あたしの心に、深く優しく染みこんでくる。


「確かに大変な事件になったけれど、仕方ないことだったんだよ。どこかで、何かにぶつかってでも終わりにしないといけなかったんだ。……そうでなければきっと、ソラもキラちゃんも、美夕ちゃんも、不幸になっていたはずだ」


あたしはもう、ただ、泣くしか出来なかった。

そんなあたしに、旦那さんはずっと優しい言葉をかけ続けてくれた。


 美夕ちゃん、ありがとう。

 ソラを大事に思ってくれて。

 ソラのことを愛してくれて。


 ソラの代わりに、私から、何度だってお礼を言うよ。

 美夕ちゃん、本当にありがとう──






それが、ソラと奥さんが帰ってくる前に旦那さんに聞いた話だった。