店内には、旦那さんの他には誰もいなかった。

「……お久しぶりです。奥さんと……ソラは?」

「今、家内が買い物に連れ出しているよ。ソラに会う前に美夕ちゃんに伝えておきたいことがあったからね。ちょっとした時間稼ぎだ」

……旦那さんの言いたいことは分かっていた。

「コーヒーでいいかい?」

旦那さんに勧められたカウンター席に腰掛けると、あたしは「はい」と小さく頷いた。


すぐに、お店の中に香ばしいコーヒーの香りが広がる。

あたしはサイフォンから立ち上る柔らかな湯気を無言でじっと眺めていた。


しばらくすると、手の空いた旦那さんが話を始めた。

「……ソラは元気でやってるよ。この近くの大学に通っていてね、空いた時間は店を手伝ってくれているんだ」

よかった。
ソラは元気なんだ。

それが分かっただけで、目頭が熱くなってしまう。


「キラちゃんと会ったんだよね。元気だった?」

「はい……。しっかり両親のお店を手伝ってて……うまく言えないけど、キラ、生き生きしていました」

「それはよかった。本当はキラちゃんも引き取ってあげたかったんだけど、どうしても2人一緒っていうわけにはいかなかったから。……元気かどうか、ずっと気になっていたんだ」