目の前のキラは、いつまでも、その長い黒髪が地面につきそうなくらい深く頭を下げたままで。


「ねえ……頭を上げてよ、キラ」

あたしが涙声で何度そう言っても、決して頭を上げようとはしなかった。


キラの小さな肩は、

膝の上で、血管が浮き出るくらい強く握りしめられた手は、


ずっとずっと震えていて。


「キラ!」


もう、さっきまであたしたちの間に感じられていた壁は消えて無くなっていた。


あたしはキラの名前を何度も、何度も、何度も呼びながら、キラの元へ走って。

そしてキラを強く抱き締めた。


「お願いキラ……頭を上げて」



あたしの耳に、キラの弱々しい泣き声が届く。



「美夕、ソラは私たちが思っているよりずっと弱かったみたい。……だから、これから辛いかも知れないけど、ソラのことを助けてあげて……」

「うん……」

「お願いだよ。こんなこと、美夕にしか頼めないんだから……」

「うん……」

「裏切ったら、絶対に許さないからね?」

「うん……うん……!」



気がつくと、発車直前だった車のエンジンは止まっていて。


すぐ横にある線路を何本もの電車が行き交う間、
あたしたちは泣きながら、お互いの名前を呼びながら、ずっと、ずっと抱き合っていた。



……それまで気付かなかったけれど、

キラからは、5年前と何も変わらない、懐かしいムスクの香水の香りがした。




ねえ、キラ。

あたしたち、小さな頃から長いこと親友してきたけど、


こんなに強く抱き合って、

こんなにいっぱい泣いたのは、



これが初めてだよね────