式場を出てひとつめの信号は、赤だった。

横断歩道の手前で立ち止まるとすぐに信号は青に変わって、信号待ちをしていた周りの歩行者が一斉に足を進める。


……だけど、あたしの足は動かない。


立ち止まったまま、あたしは、ずっと、ずっと、さっき聞いたキラの言葉を頭の中で繰り返していた。


『ソラは一度も私たちに連絡をくれなかった。それが、ソラの出した答え』


そんなの分かっていたことだ。

この5年間、そのことを実感しない日なんて1日たりともなかった。

ただ、それを認めるのが怖かっただけ……。



横断歩道に流れる電子音や車の音。

ううん、そんな大きな音じゃなくても、

通行人の足音に簡単にかき消されてしまいそうな弱々しい声で、あたしは呟いた。


「ソラはもう、あたしのことなんて忘れちゃったのかな……」


──そして口に出した途端に、それは『現実』に変わる。



キラはもう立ち直って、仕事を始めている。

先輩も、他の女性との幸せを見つけた。


ソラだって。

あたしやキラに愛想を尽かして、どこか知らない場所で生きているんだ。



『あの時』から前に進めていないのは、あたしだけ……。