「美夕ちゃんがソラのことを忘れられるまでそばにいてあげるって約束、守れなくてゴメンね……」

だけどあたしは、そんな先輩の『酔ったフリ』に気付かないフリを続けた。


ただ、先輩の目を見ていると、今にも涙が零れ落ちそうで。

「ねえ、先輩。いっぱい話して疲れたでしょ? あたし、水持って来ますね」

涙を隠すように、あたしは立ち上がってキッチンに向かった。




あたしがキッチンで涙を拭って、冷たい水の入ったグラスを持って部屋に戻ると、

先輩はもう、深い寝息をたてていた。


……先輩ってば、よっぽど緊張していたんだ。


ソファの横でしばらく先輩の寝顔を眺めていると、先輩は「うーん」って寝返りをうちながら、小さく一度だけ女の人の名前を呼んだ。


「うーん……リョー……コ……」


リョウコ……って、もしかして彼女の名前?


先輩は幸せそうに、口を半開きにして微笑んでいた。

こんな幸せそうな先輩の顔、初めて見るかも知れない……。


大丈夫。

今話を聞いた彼女なら、必ず先輩を幸せにしてくれるだろう。



先輩の幸せそうな笑顔に、思わずあたしまでつられて笑みが零れる。


不思議なことに、部屋に充満していたはずのタバコとアルコールの臭いが、今はもう何も気にならなくなっていた。



「先輩、おめでとう。これからいっぱい、幸せになって下さいね……」

あたしは先輩の耳元でそう囁くと、そっと毛布を掛けて部屋の照明を落とした。