「おめでとう、先輩」

「ありがとう。美夕ちゃんも、早く幸せになるんだよ」

「うん。……でもね、先輩。結婚するんだったらもう、ここに来ちゃいけないよ?」



「うん、そのつもり」



それは、即答だった。

「ここに来るのは今日でおしまい。……本当は、そのことが言いたくて」

先輩が、ゆっくりと、まぶたを開けた。




それは、あたしが大好きな、先輩の瞳。





先輩とは、苑ちゃんのお兄さんとして出会ったのが始まりだった。


先輩は、キラにそそのかされながらも生まれて初めての告白をしたあたしの想いを受け止めてくれて。

あたしのことを、好きだって言ってくれた。


だけどあたしはソラのことを諦めきれなくて、

そのせいで、先輩はあたしと双子のいざこざに巻き込まれて、

あたしたちのせいで、いっぱいいっぱい傷ついて、

いっぱいいっぱい苦しんで──



でも、先輩はどんなときだって、

自分が傷ついても、

あたしのことを一番に考えてくれた。

こんなあたしでいいって、誰よりもあたしのことを認めてくれた。



あたしは、こんなに深い優しさに満ちた瞳を持った人を、他に知らない……。



あたしは気付いた。

……そうだ。

先輩は、決して酔った勢いなんかでここに来たんじゃない。

ただ、酔ってるフリをしてるだけだ……。