それはある夜、電気を消して冷たい布団に潜り込んだ直後のことだった。


あたしは、家のドアを激しく叩く音で目を覚ました。


「美夕ちゃーん、開けて!」

聞き覚えのあるその声は、玄関先で恥ずかし気もなくあたしの名前を連呼する。


枕元の携帯に手を伸ばして時間を確かめると、時刻は既に1時を回ろうとしていた。

……イヤだな。眠いし、こんな時間だし。

動きたくなかったけれど、この招かざる客を放置すれば絶対お隣さんに怒られる羽目になる。

あたしは仕方なく重い腰を上げて、玄関へ出て行った。


「……こんな時間にどうしたんですか?」


確認する必要もない。

あたしがドアを開けると、そこに立っていたのはスーツ姿の先輩。


「ごめんね美夕ちゃん。飲んでたら終電に乗り遅れちゃって。一晩泊めて?」


ドアの隙間から、冷たい外気とともにキツイお酒とタバコの入り混じった臭いが家の中に入ってくる。

先輩がこんなに酔っているところを見るのは、これが初めてだった。


「ごめんね……トイレ、貸りていい?」

先輩はコートとカバンをあたしに手渡すと、千鳥足で勝手に家に上がってきた。


……あたし、まだ「いい」なんて一言も言ってないのに。