──その後。
あたしは駅員に用務室に連れて行かれて、
そこで「少し落ち着きなさい」ってマグカップにたっぷり注がれたコーヒーを出してもらった。
「インスタントじゃない、挽き立ての豆だから美味しいよ。水だって特別にミネラルウォーターだ」
そう言われて渡されたマグカップ入りのコーヒーを一口飲むと、温かくて、とっても美味しかった。
「……美味しいかい?」
あたしが黙って頷くと、その駅員さんは笑った。
「よーし。モノを食ってそれを『おいしい』って思えるんなら大丈夫だ。コレ食べてもう少し落ち着きなさい」
駅員さんは、マグカップの横に透明なフィルムに包まれた小さなチョコレートをひとつ添えてくれた。
そして何も聞かずにあたしが落ち着くのを待つと、「真っ直ぐ家に帰るんだぞ」って見送ってくれた。
気付くともう、終電の時間だった。
泣きすぎて、まぶたが腫れすぎて、目を開けているはずなのに目が開かない。
だけどいくら視界が狭くても住み慣れた町だ。
いつもの駅。
いつもの道。
そしていつものバス停……。
そのすべてが愛おしくて、
目をつぶっていても、家まで無事に帰り着ける気がしていた。


