「──乗って」

「え?」

「待ち合わせは駅だったよね? そこまで送るから、早く乗って」

先輩はそう言い終える前にもう、カバンごとあたしを抱きかかえて。

「……こんなちっちゃな体で……今にも折れそうなのに……。どうして自分から辛い道ばかり選ぶかなぁ……」

バイクの後ろに強引にあたしを座らせると、ヘルメットを渡してくれた。

「早く着きたいんなら俺にしっかり捕まって。そうしないと危なくてスピードが出せないからね」

先輩は自分もバイクにまたがると、後ろ手にあたしの手を掴んで。

それを自分のお腹の前に回すと、両手の指ををしっかりと組ませてくれた。


先輩の手は、力強くて、温かくて。
とても優しかった。


「……先輩」

「悔しいけど、こうして美夕ちゃんを乗せてあげるのも最後なんだ。少しは俺にも頑張らせてよ」


そして、エンジンの音を大きく鳴り響かせながら、あたしと先輩を乗せたバイクは走り始めた。

ソラの待つ、駅へ向かって──



──先輩、ごめんね。

こんなあたしに、最後まで優しくしてくれて。


何度も何度も。

あたしは先輩の背中で泣きながら、「ありがとう」と「ごめんなさい」を繰り返した。



フルフェイスのヘルメット。

両手は先輩の体をしっかりと抱きしめているから、あたしは涙を拭くことが出来なかった。



駅へ向かう間、

あたしはずっと、


先輩の背中で泣き続けた。