先輩は、決してカバンを引っ張る力を緩めようとはしなかった。


「先輩、ごめんなさい……あたし……どうしてもソラといたいの……ソラが好きなの!」


その言葉に、あたしのカバンがふわっと軽くなった。

それは、先輩がカバンから手を離したことを意味していた。


──先輩の大きなため息が頭上から降ってくる。


「いくらソラが小さい頃から知ってる相手だって言っても、付き合って何日も経ってないんだよ? 分かってるの? こんな早まったことして、絶対後悔するよ?」

「はい」

「……それでもいいっていうの?」

「はい」

「親や友達……キラも泣くのに?」

「……はい」

「……俺がこんなに『行かないで』って頼んでも、それでもダメなの?」


見上げると、そこには先輩の悲しそうな顔があって。

あたしはすぐに先輩から目をそらした。


「……ごめんなさい、先輩」


他に言える言葉がみつからなくて。

あたしはずっと先輩に頭を下げたまま、ただ、何度も「ごめんなさい」を繰り返した。