キラとソラの家は、夕食の美味しそうな匂いに包まれていた。

事情を知らない人なら、誰もが、ここには温かくて幸せな家庭があるって信じて疑わないだろう。

ソラがキッチンに顔を出すと、私たちの親より少しだけ年配の家政婦さんが、ちょうど食事の支度を終えたところで。

ソラは「ただいま」と簡単な挨拶をすると、家政婦さんにキラの様子を尋ねた。

「今日はお昼過ぎから来てるけど、キラちゃんはずっと寝てたみたい。具合が悪いの? いつから?」

家政婦さんは着けていたエプロンを綺麗に折りたたみながら、心配そうにため息をついた。

「晩ご飯はキラちゃんの好きな物を作っておいたから、ソラくんからも、キラちゃんにしっかり食べるように言ってあげてね」

「ありがとう」

後からコーヒーを持って行くからね、っていう家政婦さんの声を背に、あたしたちは2階へ向かった。


「やっぱりキラ、眠れなかったんだな……」

2人分の足音で簡単にかき消されそうな小声で、ソラがぽつりと呟いた。