急カーブで傾く体を必死に支えながら、あたしは考えていた。


ここはずっと、キラの場所だった。

あたしがここに立てるのは、キラがいないときだけ……。


明日、もしキラが一緒にバスに乗ったら、あたしはどこにいればいいんだろう?

キラは、ソラは、どうするんだろう?



……どうしてだろう。

ソラの隣に立っていることが、この前よりもずっと、ずっと苦しかった。



「今日、一緒に帰る?」

「うん……」

「じゃああとで、時間連絡するから」


そうだ。
今日からはもう、先輩の“お迎え”はないんだ……。


あたしは昨日、駅の駐輪場で先輩と別れたときのことを思い出していた。


先輩は、原付に座ってヘルメットを被ると、

「もう、送ってあげられないね」

ってあたしに微笑んでくれた。

そして、返す言葉が見つからなくて泣きそうな顔をしていたあたしに、

「明日から1人で帰れる?」

って言ってくれて。

あたしは小さな声で「はい」って頷いた。


──先輩は最後まで優しかった。




バスが長いカーブを曲がり終えると、あたしの体からふわっと力が抜ける。

「美夕」

ソラが、力を抜いて自由になったあたしの手をぎゅっと握った。

「いろいろごめんな」

「そんな……ソラがあやまることじゃないよ」

「だけど……」

「もういいよ、ありがと」



その日あたしは、一度もソラの顔を見ることができないままバスを降りた。