定刻より少し遅れて、バスが到着する。

ソラは先にバスに乗り込むと、いつも立つ通路のスペースを確保してから、ステップ途中で立ち止まったままのあたしの方を振り返った。

「美夕、こっち」

ソラは手を伸ばして、躊躇っているあたしの体を自分の横へと引き寄せた。


「もしかして、今日もあそこに立つつもりだった?」

そう言って、あたしの“定位置”を振り返るソラ。


「うん……なんかやっぱり、ここは居心地悪い気がして」

「どうして?」

「だって、ほら。ここはキラの場所だから」


……軽く。

本当に軽く。笑って言うつもりだった。


だけどソラからは

「なんか、イヤミっぽい」

真顔でそう言われて。

あたしは「……ごめん」って俯くしかなかった。



そうしているうちに、バスはいつもの急カーブに差し掛かる。

あたしは目の前の座席の手すりを掴むと、両足を軽く開いて精一杯踏ん張った。


「なに力いれてんの?」

「うん……。ここ、カーブがキツイから」

「この前みたいに、寄っかかってくればいいのに」


この前──。

あたしがソラを騙すために、「好き」って言ったときのことだ。