あたしは自分の唇に手をあてた。

『彼女』っていう言葉で思い出した、昨晩の出来事。

……そうだ。

あたし、ソラにキスされたんだ。


それなのに、

好きな人との初めてのキスだったのに、

あたし、あの時、次々に起こる出来事についていくのに精一杯で、

嬉しいとか、
ドキドキするとか、
幸せとか

何も感じなかった……。


あたしはベッドの上に座ると、両手でぎゅっと膝を抱えた。


キスしたときの唇の感触よりも、

ペンションの玄関に1人置き去りにされたときに見たソラの背中のほうが鮮明に記憶に残っているなんて……。


「なんか……やだ」


分かってる。

あのときソラがとっさに2階へ駆け上がったのは、姉弟として、キラの身を案じたからだって。

そんなこと、よく分かってる……。