「俺だって散々探したんだ、部屋になんているわけないのに」

そう呟きながら、先輩があたしの立つ土間に下りてくる。

そして、足元をぐるっと見回した後、真新しい木製の靴箱を開いて中を覗き込んだ。

「靴が無くなってる……。キラちゃんは、外だな」


──外。

真っ先に頭に浮かんだのは、目の前を流れる川だった。

その少し先には、滝もある……。

「……どうしよう」

体が震える。

考えちゃいけないことだけど。

そんなこと、あっちゃいけないことだけど──。


あたしの体の震えが、いっそう激しくなった。


「先輩、どうしよう……キラに何かあったらあたしのせいだ……」

「変なこと考えちゃダメだ! 落ち着いて」


先輩はあたしの肩を抱こうとして……伸ばしたその手を途中で止めた。

広げていた指先が、あたしの目の前でぐっと握りしめられる。


何も、掴まないまま……