2人が中学に上がる頃、頼子さんはその男の人と2人で町を出て行った。


頼子さんは今、その時の男とは違う人と結婚して、幸せに暮らしているらしい。

「毎年、ねーちゃんから家族の写真入りの年賀状が届くんだけど、ねーちゃんの隣に写っているのはあいつじゃないんだ。──あいつの顔なら、一生忘れないのに」

ソラの声が、そう言ったときだけ険しくなったのを、あたしは聞き逃さなかった。



「次の家政婦さん──今でも世話になってる人なんだけど、この人は晩飯の支度を済ませたらすぐに帰って行くんだ。美夕も知ってるだろ?」

あたしは「うん」と頷いた。

「他人を家に入れたくない、早く帰って欲しい……それが俺たちの希望でもあったし、親も俺たちが大きくなったから夜まで家政婦にいてもらう必要はないと判断したんだろうな」


前を向くと、真っ暗な闇の向こうに、月光に照らされたペンションの屋根が見えてくる。

ペンションまで、もう少しだった。



「──だけど、その頃になっても、キラの様子が変わることはなかった。キラは夜になると決まって『鬼がでる』って脅えて、1人で眠ることが出来ないままだったんだ」


ソラが、ゴクリって生唾を飲み込む音が聞こえる。

話が、だんだん核心に近づいている。
……あたしはそれを確かに感じ取っていた。


「だから、ヨリねーちゃんがやめた後もずっと、俺たちは毎日一緒に寝た。……そしてそんな夜を重ねるうちに、俺たちは一線を越えてしまったんだ──」