ウソ★スキ

「その日を境に、ねーちゃんは俺たちに感情を隠さなくなった。俺たちはまるで腫れ物に触るように、不機嫌なねーちゃんの顔色ばかり伺って……」


そしてソラは、頼子さんの彼の話を始めた。


「一度、ねーちゃんの彼氏がうちに怒鳴り込んできたことがあったんだ。ねーちゃんがドアを開けた途端、うちに入ってきて、いきなり『いつまで待たせる気だ!』ってヨリねーちゃんを罵るだけ罵って、そのまま帰っていった」

怖かったよ。
俺もキラも、リビングの隅で小さくなって震えてた──。

ソラは、淡々とそう言った。


「……そのとき、頼子さんは?」

「ねーちゃんは泣いていた。泣きながら、男にずっと謝り続けてた。相手の男はあんまり柄のいい人じゃなさそうだった」

「どうして……そんな人……」

「そうなんだよな。俺も、どうしてヨリねーちゃんみたいに優しい人が、こんな奴に怒られないといけないんだ? って、不思議に思ったよ」


……だけど、それでも頼子さんはその男の人が好きだったんだ。

ソラやキラよりも、大事だったんだ……。



「キラが夜1人で眠れなくなったのは、その時からだ。キラの奴、夜になるとねーちゃんに隠れて体を震わせて、泣くんだよ」



そして小声で言うんだ。

「もうすぐねーちゃんが鬼になる時間だ」って──


そう言うソラの声も、震えていた。




あたしの知らない、幼いキラとソラが悲鳴をあげている。


──あたしが泣いちゃいけない。
2人の過去から逃げちゃいけない──。


そう思うけれど、涙をこらえることが出来なくて。


あたしは、ソラに気づかれないように、声を押し殺して泣いた。