あたしは先輩の顔を見ることが出来なくて、俯いたまま、黙って首を横に振った。

「キラちゃんと、何かあったんだ?」

「いえ……大丈夫です」



先輩の温かい手があたしの頬に触れ、涙の跡を包み込む。

「こんなにしっかり涙の跡が残ってるのに」


先輩の声も、手も、あまりにも温かすぎて。
あたしの視界はまた涙で滲む。


美夕ちゃんのウソつき──。
先輩は、わざとからかうように、そう言ってくれた。



──どうしよう。



「いいよ、言いたくないことは聞かない。だから一度、部屋に帰ろう?」

そう言うと、先輩はあたしの返事を待たずにあたしの手をぐいっと引っ張った。




──先輩。

あたしに優しくしないで。

もう、あたしなんかに優しくしないで……。



「外はもう真っ暗だったよ──それでね」


外の様子を話しながら、
少し強引に、あたしの手を握って目の前を歩く先輩──


あたしはその手を、どうしても離すことが出来なかった。