キラはゆっくりと、

とってもゆっくりと、

綺麗に片付けられたカウンターにただひとつ残されいてた、真っ赤なリンゴの入っている竹籠に手を伸ばした。


「ねえ、美夕。美夕は一瞬でも、ソラをあきらめて先輩と付き合おうって思ったんでしょ? 今日だって、先輩と同じ部屋で一晩過ごすつもりで来たんでしょ?」


籠から「何か」を掴んで、キラの手が止まる。


「だけど私は違うの。ソラだけなの。他の人じゃダメなのよ」


そしてキラは、ゆっくりとあたしの隣に腰を落とした。


「だからお願い、私からソラを奪ったりしないで」



キラの手に握られていたもの──

それは、むきだしになった刃が銀色に輝く果物ナイフだった。



「美夕がそれ以上言ったら、私、死んじゃうよ?」



キラはそう言うと、

あたしを見て笑いながら、

ナイフの先端を自分の喉元に軽くあてた。



「美夕にはこれ以上何も言わせない」