すっかり力をなくしたあたしの頭上から、キラの声が次々に降ってくる。



苑ちゃんのことは、以前から何度も、近所の本屋で見かけていたこと。

キラの目の前で、苑ちゃんが、お店の本をこっそりカバンに忍ばせたこと──。



あたしが先輩と会うことになると、キラは本屋で何日も苑ちゃんを待ち伏せした。

そして、偶然を装って、苑ちゃんに声をかけた。

苑ちゃんが本を盗んでお店を出た、その瞬間に。


『見逃して!』

泣きながらキラにそう懇願する苑ちゃんに、キラは言ったんだ。

『安心して、美夕と徹先輩が付き合っている限りは、絶対に、誰にも言わないよ』

って──。



「だって苑ちゃんが万引き犯だってことになったら、徹先輩が悲しむじゃない? そしたらその彼女の美夕も辛くなるでしょ」

もう、キラが何を言っているのか理解できなかった。

「私の大事な親友の美夕が悲しむところを、私は見たくないもの。だから、美夕と先輩がつながっている間は、私はこのことを黙ってる──そう言ったのよ」


キラは急に何を思い出したのか、プッと噴き出した。


「冷静に考えればおかしな話だって分かるのにね! そのときの苑ちゃんの安心した顔ってば、見ものだったんだよー」