「本当に、あとから片付けに来なくていいの?」

「大丈夫よ! 洗いものくらいだったら、私と美夕で出来るから」

「そう……。じゃあ、また明日の朝来るわね」

ダイニングテーブルに料理を並べ終え、エプロンを外すと、奥さんは心配そうな顔でそう言った。


「それと、暗くなったら出歩かないようにね。危ないから」

「泥棒? 物騒なの?」

キラが尋ねると、

「動物が出るんだよ。鹿や猿、それに熊もね」

先に玄関で奥さんを待つ旦那さんが、あたしたちを脅かすように言う。

「ヤツらは空腹のときはかなり強暴だから、くれぐれも気をつけて」

「イヤだ、怖ーい」

「そんなこと言って、熊よりキラのほうが強そうだけどな」

あたしたちはそんなことを笑って話しながら、奥さんを玄関まで見送った。


よっぽどあたしたちのことが心配なんだろう。

靴を履いた後も、奥さんは話を続けた。

「今日はお隣もお留守みたいだし、戸締りだけはしっかりして、何かあったらどんな時間でもいいから連絡をちょうだい」

「もう、奥さんは心配性なんだから」

「当たり前でしょ! あなたはご両親にお預かりした大事なお嬢さんなのよ」


奥さんはキラの肩をしっかり抱いてそう言うと、旦那さんに促されてペンションを後にした。

何度も、何度も、あたしたちのほうを振り返って、手を振ってくれた。