ソラとキラが小さな頃から、ずっとこのペンションの管理を任されているという夫婦。

「ソラくん、そろそろその呼び方はやめないか? 雇われの身で“旦那さん”って呼ばれるのは照れくさいよ」

そう言って笑う“旦那さん”は、かなりの痩身で、先輩よりも更に背が高かった。

キラが列車で話してくれた通り、遠目から見たときには悪役俳優みたいな強面にドキッとしたけれど……

ひとたび話し始めると、眉間のシワがすっかり消えて、人のいいおじさんの顔になってしまうから人相って不思議だ。


そんな旦那さんを見上げ、ソラが笑顔を返す。

「今更呼び方を変えろなんて言われても、無理だよ。旦那さんは旦那さんなんだから」


ソラたちのパパは、若い頃、この夫婦の経営するお店で修行をしていたという。

そして夫婦が早々に隠居を決めると、そのお店を譲り受け、夫婦から経営アドバイスを受けながら今のお店にまで大きくしていったらしい。


「そうよ、昨日もママから電話があったの。『旦那さんと奥さんに絶対迷惑をかけないように!』って」

「店から連絡してくることなんて滅多にないくせに、なぁ」


ソラがあたしと先輩を見て、笑った。

「うちの親は2人に頭が上がらないんだ」


ソラの家族にとって、この夫婦はいつまでも変わらず「旦那さん」と「奥さん」なんだ……。