「……こんなとこじゃ話せないよ、今夜ゆっくり話そう」

先輩が、あたしの方を見て、ため息混じりにそう呟く。

だけどあたしは先輩と目を合わせられなくて。

それでも「今夜」という単語に敏感に反応して、思わずビクッと体を引きつらせてしまった。


「心配しないで、話をするだけだから。……それに、俺だって気持ちを整理する時間が欲しいからね。だから、そのくらいの時間をくれても良いと思うけど、どうかな?」

「……分かりました」



そうして再び、あたしたちは黙って目の前の2人を見つめた。

キラは体をソラの方に向けて、嬉しそうに何かソラに語っている。

それに対して、ソラは前を向いたままで……。



「美夕ちゃんは、いいの?」

「え?」

「キラちゃんから、ソラを奪う覚悟があるの? 親友だって失うことになるかも知れないんだよ?」


「…それは」

あたしは、言葉に詰まってしまった。



耳元で、先輩が「ふぅー」って大きなため息を吐く。



「そんなことになったら、キラちゃんはどうなっちゃうんだろう?」


「……」


「ソラを失ったら、キラちゃん、きっと壊れちゃうよ?」



──それでもいいの?

──俺はどんなに頑張ってもソラの代わりになれないの?



そんな先輩の声が、どこか遠くから聞こえてきた。


だけどあたしは、何も答えられなくて。

前に座っているキラとソラの後ろ姿から目が離せなくて。



それっきり、あたしたちは黙ってしまった。



バスのエンジン音だけが、ずっと、うるさく鳴り響いていた。