あたしは中からドアを叩いた。

「どうして! どうしてそんなこと言うの!?」



ソラは、きっと、ドアのすぐそばにいる。

あたしたちはドアを挟んで、きっと向かい合っていて──



「先輩、すっげーいい人だから。だから美夕は先輩と幸せになるのが一番だから」


ソラは、あたしの言葉を待たずに、たて続けにこう言った。



「この前、美夕、俺が乗ってたバスに乗らなかっただろ? ……俺が呼んだのに気付いてたはずだけど」

「……」

「あの時電話してた相手、先輩だったんだろ?」

「……」



「美夕が、先輩を選んだんだ」




入り口に向かって、ソラが足を踏み出す音がした。

ソラの体が、次第にドアから離れていく。




「幸せに、な」





最後にそう言うと、ソラは静かにトイレを出て行った。