「ねえ、美夕」

キラがあたしの手を取って言う。

「……頑張ってね、今日」


「イヤだなぁ、頑張るなんて言い方……」

苦笑いを返すあたしの手を、キラは更にぎゅっと強く握りしめた。

「分かってるでしょ? ……怖いかも知れないけど、先輩なら優しいし、大丈夫だよ」

「……うん……」

「先輩に任せて、ね?」


あたしは何て答えていいのか分からなくて、ただ黙って頷いた。


なんだかキラが話していることが、ちっとも頭の中に入ってこなくて。

まるで他人事のようで……。


「それに、先輩……私たちのこと知ってるんだよね?」

「うん……知ってるよ」

「だったら、これからは美夕と先輩にはずっと仲良くしてもらわないと! 私達の秘密を守るためにも、ね」


キラはあたしの手を握ったまま、立ち上がった。

そして、

「さあ、そろそろ戻ろう! きっと2人とも心配してるよ」

って、歩き始めた。




こんなときだけ、自分たちのことを「秘密」扱いするなんて……。


「キラ、ずるいよ……」


あたしは目の前を歩くキラの背中に向かってそう言ったけれど、

席に戻るまで、キラは一度もあたしのほうを振り返ろうとはしなかった。