そのとき、ようやく道路の向こうに、あたしが乗る予定のバスが見えてきた。

「え……と」

あたしがとまどっているうちに、バスはいつものように、あたしの目の前で止まる。

あたし、手を上げていないのに。


そして真中あたりにある乗車ドアが開いた。

降車客は誰もいなくて、
バスは間違いなくあたしのために止まったんだってことが分かる……。

やだ、どうしよう。


『どうしたの? もしかして、もう家の近くまで帰ってるの?』

先輩が電話の向こうで心配そうに聞いてきた。



……その時だった。



あたしはそのバスの中に、ソラの姿を見つけてしまった。



通路に立ち、
つり革につかまって
じっとあたしを見ているソラ……。


気のせいだろうか?

ソラの唇が、「おいで」って動いたように見えた。



あたしの足は、完全に止まってしまった。




そして、そんなあたしにイラついたのか、


《お客さん、乗らないの?》って、



インターホン越しに運転手の声が聞こえてきた。