『もしもし』

呼び出し音はすぐに先輩の声に変わる。

『美夕ちゃん、どうかしたの? もう家に帰った?』

先輩はいきなりあたしの心配をしてくれる。

……あたしから電話をすると、心配性な先輩は、いつもこうなんだ。

何も無くても、電話する事だってあるのに。



「先輩こそ……原チャリ、大丈夫でしたか?」

耳を澄ますと、電話の向こうから車の音が聞こえてきた。

『うん、バイクショップまでバイクを押して行って、今さっき修理が終わったとこだよ。これから帰るんだ」

そういえば、この近くにバイクショップがあったような気がする。

アップダウンの激しい通学路を壊れたバイクを押しながら歩いたら……かなり時間がかかったんじゃないかな。


「大変でしたね」

あたしがそう言うと、先輩は疲れを見せない明るい声で「ありがとう」って言ってくれた。