先輩は、まだ原チャリを動かそうとしなかった。


そのままの姿勢で、なんだか、嫌な『間』が続く……。

先輩がハンドルを握りなおす、そんな些細な動作にさえドキッとしてしまうくらい、あたしは緊張していた。


ただ、何も言えないまま、時間だけが過ぎる……。




しばらくすると、先輩は、フッと笑ったかと思うと、

「美夕ちゃん、今すごくドキドキしてるね。背中から伝わってくる」

そんな言葉を掛けてくれた。


「え?」


なんだか恥ずかしくて、とっさに先輩から離れようとするあたし。

先輩はそれを「離れたら危ないから」って止めた。


そして、

「美夕ちゃんと旅行にいけるのは嬉しいんだよ。でも、今週末はやめておこう」


あたしの方を振り返りながら、笑ってこう言ってくれた。



「美夕ちゃん、具合悪いんだから。俺は、元気な美夕ちゃんと旅行したいんだ。焦って今週無理に行かなくても、これから何度もチャンスはあるんだし、ね」



そういうと、先輩は少し照れたのか、「よし、行こうか」って原チャリのエンジンをかけた。



あたしは、そんな先輩の言葉が、仕草が、背中の温かさが……

……先輩のすべてが嬉しくて愛おしくて、




原チャリが動き出すより前に、

ぎゅっと強く先輩にしがみついて、


その背中に顔をうずめた。