敏郎氏が離婚届に判をついたのは約5年前になる。


それは同時に真希の母親の失踪を意味し、伯母は真希の上に君臨した。


いや、すでにしていたのだろうか。


伯母が敏郎氏と同居し始めた、7年前から。



「姉さんは敏郎さんと出会って壊れてしまった。それまで大切にしていた優しさを棄てて、唯敏郎さんを手に入れる為に何でもした。」



本妻ががたまりかねて死ぬか、姿をくらますまで。


伯母にとっての誤算は、真希が家に残った事だ。


「お袋は知ってたのか。ずっと、それで、黙って見てきたのか?」


「黙ってないわ。でも、届かなかった。姉さんには、何も。」



強い無力感。


強い自己嫌悪感。


強い罪悪感。


大切な人が苦しんでいるのに何もできない。


届かない。



「だから、裕、親の傲慢かもしれない、それでも、あの娘――真希ちゃんを、助けてあげて。何でもいい。壊れる前に、助けてあげて。」



どうか、壊れる前に。



「真希を壊してたまるものか。」



覚悟なら、とうにしているのだから。