◇沙門◇



母さんの様子がおかしい。


いつもなら、おはようと元気に俺を起しに来るのに、今日は父さんが起しに来た。



どうしてなのか父さんに聞いても、苦笑いが返ってくるだけ。




「なぁ、何かあったんだろ?母さん、どうかしたのか?」




俺は再度強く父さんに問うてみる。



おかしい。



母さんが家の事を放り出したことは1度もないのに。




「なぁ、父さん。どうしたんだよ。」




父さんはしつこく聞いてくる俺を見て溜め息をついた。




「芹沢さんの事だ。」


「芹沢の?」


「昨日、彼女を預かっている医師から電話が来た。」


「なんで……」


「落ち着いて聞けよ沙門。」




父さんはいつになく真剣な顔で俺に言った。



芹沢の事。


つまり、真希の事。


俺の妹の事。






「芹沢の娘、このままだと右目の視力を失うらしい。」


「なっ…!」




突然のことに、俺はパニックになる。


ゆらゆらとあてもなく視線をさまよわせる俺に父さんはゲンコツを脳天にぶちこんだ。




「いってぇ!なにすんだよ!」


「いいか、人の話は最後まで聞け。視力を失わないですむ方法は1つだけある。」



父さんは茶色の髪をガシガシ掻きながら、俺に言った。





「角膜移植だそうだ。」