わからない。
思い出せない。
誰?
誰?
「くそっ…!」
相川はそう毒づいてどこかに電話しようと固定電話の受話器をとった。
私はなんとなく相川の持っている受話器を取り上げて、受話器を下げる。
相川は私を一瞬見てまた受話器を上げようとしたけれど私は本能的に受話器を取り上げて下げた。
電話なんかしないで。
電話したら、私が壊れてしまいそうに思えた。
相川は私を見て逡巡した。
じっと私を見つめる。
しばらくして、相川が口を開いた。
「どうして…ここに?」
私は即答する。
「なんとなく…」
「なんとなく?」
「なんとなく、相川なら、私を助けてくれそうな気がして……」
自分で言っときながら驚いた。
私は、助けをもとめてきたのか。
「っ……」
相川は苦虫を噛み潰したような顔をして、私を抱き締めた。